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逃がさない 4

Author: 花室 芽苳
last update Huling Na-update: 2025-07-09 20:46:55

 御堂《みどう》は強引さの中にも、しっかりと私への愛情と優しさを持ってくれている。それが彼のキスから伝わってくるから、私の心が揺らいでしまうのだろう。

 唇が離れ、冷たい指が私の濡れた唇をなぞる。ほら、また私の唇が熱くなってしまう。

「俺のキスが嫌だと思うのなら、なぜお前は拒まない?」

「御堂がそうさせてくれないんでしょう? あなたはいつも強引過ぎるのよ」

 拒むことが出来なかったように言ったけれど、本当は違う。私は御堂を本気で拒もうとしていないんだって、自分でもちゃんと気付いている。

 結局……私は少しだけ、御堂に女として甘えたい気持ちがあるのだわ。

「優しくされ遠回しに好意を伝えられても、相手の気持ちに気付かないふりをして逃げてきたんだろう? そんな紗綾《さや》には、これくらい強引なやり方でちょうどいい」

「どうして、貴方がそんな事……」

 ここに来たばかりの御堂が、なぜそこまで知っているのか。確かに私はそうやって、向けられた好意を見ないふりしてきたけれど。

「今の紗綾の様子を見ていればわかる。だが、それが俺にも通じると思うのは間違いだ」

「私を逃がしてくれる気は……無いの?」

 まっすぐ、私を射貫くように見つめてくる二つの瞳。そうよ、答えなんて最初から分かってる。

「俺はお前を、逃がさない」

 こうやって、言葉で視線で私を動けなくして……御堂はゆっくりと私を捕らえようとしてくる。

 ――どうして、逃げられない?

 「今すぐ逃げろ」と、頭の奥で自分の声が木霊するのに、私はこの場所から一歩も動けないでいる。

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